銀行がATM削減、なぜセブン銀行は台数増加?ATMで収益をあげるモデル確立

●この記事のポイント
・セブン銀行着実にATM設置台数を増やし続け、利用者数も増加傾向にある
・提携先からのATM受入手数料収入を基盤としている
・スマホ決済サービスや電子マネーへのチャージが、銀行口座不要かつ手数料無料で利用可能
ATM市場全体の設置台数は縮小傾向にあり、その主な要因はキャッシュレス化に伴う現金需要およびATM利用頻度の低下だ。このような状況にもかかわらず、セブン銀行は2001年の設立以来、着実にATM設置台数を増やし続けている。2025年4月時点で約28,000台を展開し、業界最大規模を誇るとともに、利用者数も増加傾向にある。今回はセブン銀行のATMの設置台数や利用者数が増加している背景、成長戦略について同社ATMプラットフォーム推進部部長の大川原氏に話を聞いた。
●目次
金融機関との提携で安定した収益を確保
セブン銀行は、「セブン-イレブンにATMがあったら便利」という声を受けて2001年に設立された。セブン-イレブンの店舗が主要なATM設置場所であり、店舗数の着実な増加に伴ってATM設置台数も拡大している。さらに、駅、空港、商業施設、スーパーマーケット、提携金融機関など、利用ニーズの高い場所への展開も積極的に進め、現在では約28,000台のうち約4,000台がグループ以外への設置となっている。
セブン銀行の収益モデルは、提携企業からの手数料収入を基盤としている。多くの銀行がATMの削減を進める中、セブン銀行は676社(2024年3月末時点)との提携により、幅広い金融サービスを提供。一般の銀行ATMが自行サービス中心に限定されるのとは異なり、この広範囲な提携網により、安定した手数料収入を確保している。
「提携金融機関は、ATM運営を弊社に委託することでコスト削減を実現しています。地方銀行のATM台数は全体的に減少傾向です。その結果、現金入手手段として、弊社のコンビニATMの利用が増加しています。また、ネットバンクは、インフラコストを抑えるため自社ATMを持たず、弊社のATMを通じた入出金サービスを積極的に活用しています」(大川原氏/以下同)
機能面の充実が幅広いユーザーを獲得
セブン銀行は小売業をルーツとしており、「近くて便利」という価値を重視している。24時間365日利用可能で、日常の買い物のついでに気軽に立ち寄れる利便性は、他行のATMにない大きな強みとなり、利用者数の増加につながっている。
さらに、ATMの機能性を徹底的に追求することで、利用者数の拡大を実現している。2020年にはATMでのマイナポイント申し込みサービスを導入した。また、他のコンビニATMが主に日本語と英語を中心とした対応であるのに対し、12言語に対応している点(海外発行カードの利用時など特定の取引時)も特徴的だ。さらに、現金の入出金にとどまらず、あらゆる手続き・認証をATMで行う「+Connect(プラスコネクト)」サービスも2023年9月より展開している。中には利用者がATMで取引きを行う際に、各提携機関がお知らせしたい情報をATM画面に表示し、回答を収集する「ATMお知らせ」と、これまで対面で行う必要のあった各種手続きを、原則24時間365 日行うことができる「ATM窓口」がある。また、2025年2月からは顔認証取引サービス「FACE CASH」も導入し、セブン銀行と静岡銀行でサービスを開始している。顔情報を登録すればキャッシュカードなしでの入出金が可能となっている。今後も順次採用先を拡大してゆく。
キャッシュレス化の進展に応じたサービスも展開している。PayPay、au PAY、d払い、メルペイ、楽天キャッシュなどのスマホ決済サービスや、Suica、楽天Edy、nanacoなどの電子マネーへのチャージが、銀行口座不要かつ手数料無料で利用可能だ。
「弊社はATMの利便性を追求しており、新しいお客様のニーズを開拓するための開発に積極的に投資するようにしています。他社の真似ではなく、『こういうものがあったらいいな』という発想で開発し、それをマーケットに展開することで、お客様から『こういうサービスが欲しかったんです』という声をいただくことを目指しています。
現在、セブン銀行ATMでは『ATM窓口』と『ATMお知らせ』というサービスを提供中です。ATM窓口では、ATMで直接口座開設の申し込みができ、ATMお知らせでは、ATM利用時に画面で各種案内を表示します。
お客様の入力の手間を削減するため、身分証明書の読み取りによりデータを自動取得するなど、さまざまな工夫を取り入れてサービスを展開しています」
近年は金利上昇により、新規口座開設のニーズが高まってきたが、各社には当社ATMを、新たな窓口としてご活用いただき、窓口業務の効率化にご活用いただいている。口座開設や住所・電話番号の変更受付などのサービスを提供することで、社会インフラとしてより重要な存在となっている。今後の戦略について大川原さんは語る。
目指すは堅実で持続可能な成長
「目立った成果を追求するのではなく、目指すのは堅実で持続可能な成長です。ATMに関していえば、単に設置台数を伸ばすというわけではなく、お客様のニーズがあるところを見極めて設置していきます。現在提供しているサービスの活用を促進をしながら、最新のテクノロジーも積極的に活用して新しいサービスを生み出したいと考えています」
以前は40代の働き盛りの男性のATM利用が中心だったが、現在では10代から60代まで幅広い年齢層に利用されているというデータが、最近の調査で明らかになっているという。今では年金支給日に高齢者の方々が年金を引き出す用途で活用する光景も珍しくはない。
セブン銀行のATMが幅広い利用者を獲得できた理由のひとつは、従来のATMの枠組みを超えた革新的なサービスの提供にあった。今後、テクノロジーの進化とユーザーニーズの変化に応じて、セブン銀行のATMがどのように発展していくのか注目される。
(取材・文=福永太郎)